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不法行為による損害賠償請求権の消滅時効

全国的にもですが,岐阜でも,連日の猛暑がおさまってきました。

私の机が窓の傍なので,空調を行っているとはいえ,毎日大変でした。

 

ところで,原則的という言い方をさせていただきますが,2020年4月1日から改正民法が施行されます。

改正箇所は多岐にわたりますが,消滅時効の制度も改正されています。

本日は,不法行為による損害賠償請求権の消滅時効について,触れてみたいと思います。

まずは,現行と改正後の条文から見てみましょう。

【現行民法724条】

 不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは,時効によって消滅する。不法行為の時から二十年間を経過したときも,同様とする。

【改正民法724条】

 不法行為による損害賠償の請求権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。

 一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。

 二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

 

改正後の724条1号の規定は,現行前段の規定が維持されており,変更点はありません。

他方,改正後の724条2号の規定は,現行と異なり,20年の期間が消滅時効であると明記されました。

最判平成元年12月21日にて,20年の期間が除斥期間であるとされていましたが,改正後は消滅時効となります。

除斥期間の場合には,時効の中断や時効の停止(民法改正後は「更新」「完成猶予」となります。)の適用がなく,その期間経過後は権利の行使ができなくなります。

したがって,民法改正により消滅時効であることが明記されたことは,従来よりも被害者保護に資する改正であるといえます。

 

さらに,改正民法では,724条の2の規定が新設されました。

条文は次のとおりです。

 

【改正民法724条の2】

人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については,同号中「三年間」とあるのは,「五年間」とする。

 

現行は,724条のとおり,人の生命又は身体を害する不法行為か否かで,区別しません。

改正民法では,生命・身体の重要性に鑑み,これを侵害されたことに基づく損害賠償請求権について,他の場合よりも権利行使の機会を長期化し,3年から5年としました。

「人の生命又は身体を害する不法行為」という前提から,例えば,交通事故による物損事故では,不法行為であっても,これに該当しないため,他の場合と同様の扱いになるものと思われます。

 

経過規定で,2020年4月1日の施行時点で現行の724条前段に定める時効期間が完成している場合には,改正民法の規定は適用されないとされています。

反対に,施行時点で時効期間の完成前であれば,「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権」の時効期間が5年になるので注意が必要です。